みなさんはHDD , SSDなどの記憶装置を利用していますか。今や世界中で大量のHDD,SSDが使われています。しかしそれらに大事な情報を記憶させたい時に懸念されるのは「寿命」や「耐久性」についてです。
そこで、Microsoftがワーナー・ブラザースと協力し、石英ガラスにデータを保存できる装置を開発しました。
この装置のメリットやデメリット、仕組みについて解説していきます。
この記事を2行で説明すると
- Microsoftが石英ガラスにデータを埋め込む装置を開発
- その耐久性等から、数百年の保存が要求される場合に使われていくだろう
石英ガラスメモリの仕組み
以下の動画をご覧になるとわかりやすいです。
こちらはMicrosoft Researchが投稿したものになります。
書き込み
まずは書き込みについてです。石英ガラスは非常に耐久性が高く、非常に透明です。石英ガラスメモリの書き込みでは、専用のレーザー照射機を使ってガラス内に、決まった法則に従ってコードを刻んでいきます。

そして、石英上に「ボクセル」と呼ばれるものを複数、立体的に形成していきます。
ボクセルとは、ピクセル(画素)の3D版のようなもので、石英ガラスメモリでは1つのボクセルの大きさは1μm(0.000001m)以下となります。つまり1平方メートルの石英ガラスであれば、1層だけでも1兆個のボクセルを収納することができます。くわえて、2mm厚程度の石英ガラスに100層程度のボクセルを積層することができるので、1,000mm x 1,000mm x 2mmの石英ガラスに100兆個もボクセルを収納することができます。
ボクセルの立体構造は以下のようになっています。

ボクセル自体は、「向き」と「大きさ」の二要素を持っています。生成するときにその二要素の組み合わせを変えることで様々なデータを表すことができます。
そして一度ボクセルを埋め込んだら焼いても落としても強い磁石を近づけても壊れることはほぼありません。
ただその代わり、一度データを書き込んだらDVD-Rのようにデータを消すことはできなくなります。ただ、追加で書き込むことはできるようです。
読み取り
続いては読み取りについてです。読み込みでは、法則に従って1層ずつボクセルの状態を読み取り、それをデコードして一般的なデータになおします。

石英ガラスは非常に透明なので、上から光を照射しても下のボクセル層までしっかりと認識することができます。そして焦点を変えることによって1層ずつ読み取ることができます。
デコードの際には機械学習アルゴリズムを使用します。詳しくは公開されていませんが、デコードスピードとしてはそこまでの速度は期待できなさそうです。
石英ガラスメモリのメリット・デメリット
続いては石英ガラスメモリのメリットとデメリットを紹介します。
メリット
- とにかく耐久性が高い
現状、石英ガラスメモリのメリットとしては耐久性のみです。
ただし、これはかなり重要なポイントかもしれません。HDD等は石英ガラスほどの耐久性が無く、保管する場所を整備しなければならなかったり、ある程度使ったら経年劣化を考慮してまた新しいHDDにデータを移行させなければならなかったりします。
中にディスクなどは入っておらず、見た目としてはかなり固い石英ガラスそのものなので、もちろん分解等もできません。
大きさにもよるかもしれませんが、ある程度高いところから落としても無事ですし、のこぎりで傷つけても大丈夫だそうです。
デメリット
- 製造コストが圧倒的に高い
- データの書き換えができない
- サイズが大きい
- 書き出し・読み取り等で専用の装置が必要
ざっと上げてみました。
やはり一番のデメリットは製造コストが圧倒的に高いことでしょう。
具体的な製造コストは明かされていませんが、そもそも素材となる「石英ガラス」だけでもかなり高いです。
ほんの少しのデータを保存するなら数十万円で済むかもしれませんが、企業が大量のデータを保存するのであれば、そのコストは数億円以上はかかるでしょう。
さらに、書き込み・読み取りの機械を導入したらかなりのお金がかかりそうです。
1,000年以上耐久するのは魅力的ですが、ここまで高いともなるとHDDで乗り換えていった方がまだ安いかもしれません。
というか、大量のお金を払ってこのメモリを購入したとしても、1,000年後にはどんな環境が待っているのか不明です。もしかしたらもっと良い技術が登場しているかもしれません。
そして、データの書き換えができないというのも一つのデメリットです。高いコストがかかる上に、一度書き込んだら二度と書き換えができないので、少し用途は限られてくるかと思います。
ただし、「書き換えができない」というのを前向きにとらえると、「(誰かによって)データが改ざんされない」と考えることができます。
1,000年後の人々に伝えるための歴史の情報等を収めるにはピッタリかもしれませんね。
また、容量当たりのサイズが大きいというのも一つのデメリットかと思われます。

こちらは「Superman」という映画が保存されている石英ガラスメモリになりますが、その大きさとしては手のひらの半分くらいとなっています。
映画一本がだいたい3GB程度なので、それを考えると「HDD」や「SSD」、「SD」等と比べて明らかに容量当たりのサイズが大きいことがわかります。
なので、あまり大きいサイズのファイルを収納するのには向いていないかもしれません。
どんな用途で使われていく?
メリット・デメリットを紹介しましたが、問題なのは、「どんな使い方をするか」です。
Microsoftは、この記憶装置が耐久性に優れ、保管コストも削減できることから、医療データや地質情報、建築計画など、数十年・数百年もの保存を想定するデータを保管することをその用途としています。
書き換えができないことを考えると、歴史のデータや研究の結果など、不変の事実を保存するのが最適かなと思います。
縁起でもないですが、今人類が滅亡したら後に残る情報は甲骨文字だけ(近代の情報は全て壊れる)だと予想している人もいます。
でも、石英ガラスメモリが使われるようになると、仮に人類が滅亡しても甲骨文字のように自然に溶け込んでデータを守り続けることができるでしょう。ただ一つ言えるのは、それを読み取る機械は壊れるということですね…笑
少なくとも、一家に一つ、石英ガラスメモリを持つことにはならなそうです。