たった今新型感染症のワクチン開発のために世界中のパソコンが稼働し、一つの大きなスーパーコンピュータのようにふるまっています。そんな中、新たに一つのスーパーコンピュータが立ち上がろうとしています。その名も「富岳」。
もちろん日本のスーパーコンピューターです。この記事では富岳が一体どれくらいの性能を保有するのか? どのようなことに活用されるのかについて説明していきます。
この記事を1文で説明すると
- 富士通が製造し、理化学研究所が運営する次世代スパコン「富岳」の性能はスパコン「京」の100倍以上で、Nvidia RTX 2080の127万倍以上になることが期待されている
スーパーコンピュータとは?
そもそもスーパーコンピュータとは何なのでしょうか?
スーパーなコンピュータ
よく日常生活でとびぬけていることを表すときに「スーパー」という言葉を使うと思います(いや、あまり使わないか) まさにスーパーコンピュータは「スーパーなコンピュータ」なのです。つまり普通のパソコン等と比べ物にならないくらい超越した性能を保有しているコンピュータになります。
有名なものとして「京」というスパコンがありましたが、あれは1秒に1京回の処理を行うことができます。
この性能は地球上の全人口70億人が電卓を持って集まり、全員が24時間不眠不休で1秒間に1回のペースで計算を続け、約17日間かけてようやく終わる勘定です。
これらの性能はとにかく数をこなす処理において役に立ちます。普通のパソコンでもできることにはできるけど、数が多すぎて何年あっても足りない、という時に活躍するわけですね。 そういった意味ではスーパーコンピュータは「質」というよりは完全に「量」で攻めている感じです。
その処理の例としてシミュレーションなどがあります。シミュレーション自体はそこまで難しい話ではありませんが、現実的なシミュレーションともなると様々な条件を追加し、より忠実に再現しないと正確な検証を行うことができません。そこでとにかく頭の数が多いスーパーコンピュータが活躍するのです。
しかし、ずっと活躍していた「京」もついに過去のものになってしまいました。その後継機として稼働するのが富士通の「富岳(Fugaku)」です。これは期待できそうですね。
スパコン「富岳」の実態
それでは早速次世代スパコン「富岳」の実態について紹介していきます。
由来
富岳は「富士山」の異名となっていて、性能の高さがもはや富士山という意味だそうです。そして富士山は高いだけではなく、麓にいくにつれて広がっています。この広がりは利用ユーザーの広がりを表していて、一部の団体だけでなくインターネットを介して様々な団体に活用してもらおうという思いが込められています。
処理装置
あたりまえですが、スパコンで最も重要になってくるのは「処理装置」です。スパコンは普通のパソコンよりはるかに多い処理装置を搭載し、並列繋ぎすることで莫大な一つの処理装置として働きます。
富岳に搭載されるのは富士通が開発している「Fujitsu A64FX」です。
A64FXはARMアーキテクチャがベースとなっていて、Linux上で動作します。
[dic term=”ARMアーキテクチャ”]
ベースとなっているアーキテクチャはARM v8.2-Aなので通常のスマートフォンに搭載されているSnapdragonチップセットなどのものと似たアーキテクチャとなっています。製造プロセスは7nmです。一つのノードに48コアを搭載していて、一つのノードに32GBのHBM2メモリが埋め込まれています。HBM2は通常のDDRメモリなどと異なり、機械学習などに最適化されている帯域幅の広いメインメモリタイプです。ハイエンドのグラフィックボード等に搭載されている傾向にあります。富岳のHBM2メモリでは1秒で1TB転送できるとのことです。
そしてこのノードが合計で158,976基設置されるとのことで、莫大なパフォーマンスを発揮します。その処理性能は倍精度で400PFLOPSにものぼるとされていて、単純計算でNvidiaのハイエンドGPU「RTX 2080」の127万倍程度になります。そしてスパコン「京」の100倍以上になるそうです。
そんな使い方はしませんが、どんなに高画質・長時間の動画であっても秒でエンコードできそうですね…笑
規模が大きいからというのもあると思いますが、この処理装置はAMDやNvidiaなどが開発している処理装置よりも全体的に電力効率が高くなっていて、スーパーコンピュータでありながら消費電力を抑えることができます。
ストレージ
ストレージについては16ノードで1.6TBのNVMe SSDを共有するとのことです。そして全体で150 PB(150,000 TB)のストレージを共有し、クラウドストレージサービスをも利用するそうです。
設置場所
一体これほど大規模なスパコンをどこに設置するんだという話ですが、実は兵庫県神戸市にあるポートアイランドの理化学研究所計算科学研究センターに設置する予定となっています。スポンサーは富士通ですが、実は運営を行うのはあの理化学研究所です。石川県などの富士通工場にてハードウェアの製造が行われ、ついに2020年の5月にすべての筐体の搬入が完了したとのことです。
活躍の場
これから長年にわたってあらゆる莫大な処理を担っていく予定ですが、今目と鼻の先にある「新型感染症」の問題にも大きく貢献するとのことです。文部科学省と連携し、新型コロナウイルス感染症対策に貢献する研究開発に、早くも計算資源を提供し、サポートを行っていきます。2021年度から正式な運営が目指されていて、ただいま調整を行っているとのことです。
また、政府が発表した「Society 5.0」の実現にも大きく貢献していく予定です。
Society 5.0はインターネットと現実世界を融合し、あらゆるモノが自由自在につながりを持つようになる構想みたいな感じですね。おそらく意識しなくても自然と社会はSociety 5.0に近づいていくと思います。