これまでにARMアーキテクチャの処理装置を採用しているMacパソコンについてどれだけの噂がなされてきたでしょうか。 そしてついに先日、Appleからいわゆる「ARM MacBook Pro」について具体的な製品が明かされました。
発表されたのはARMアーキテクチャの処理装置(Apple独自チップ)を搭載した「MacBook Air」「13インチMacBook Pro」それから「Mac mini」です。MacBook AirとMac miniについてはARMモデルのみとなりましたが、一方で13インチMacBook ProについてはARMモデルとIntelモデル(従来のもの)が同時に販売されている形となりました。 つまり全面的にARMに乗り換えるにはまだ早いということでしょうか。
この記事では、そんな13インチMacBook Proの、IntelモデルとApple独自チップモデルの違いについて解説していきます。
この記事を2文で説明すると
- 13インチMacBook Pro Apple独自チップモデルでは価格はそのまま、CPU性能やGPU性能などが従来のIntelモデルの数倍ほど高くなっている上、電力効率が改善されバッテリーの持ちが良くなっている
- 特別な理由がない限り、Apple独自チップ(M1)モデルを購入するべき
デザインを比較
単刀直入に言いますが、見た目に関しては13インチMacBook Proについては全く変更がありませんでした。本体サイズおよび重量についても同じで、後に紹介しますがディスプレイにも差は全く見られません。 つまり言い換えると、Apple独自チップのものとIntel製CPUのものの差は”中身だけ”となっています。
だからこそ二つの違いが分かりにくく、消費者は少し困ってしまうかもしれません。なお、先に言っておきますがAppleは基本的にApple独自チップを利用している方を推奨していますし、当サイトの管理人である私としても特別な理由がない限りIntelモデルを購入する必要はないと考えています。 それでは両者の”中身”について詳しく比べていきましょう。
Appleモデル VS Intelモデル
語弊を生みそうな見出しですが、ここでいう「Appleモデル」というのはあくまでも「Apple独自チップを採用している13インチMacBook Proモデル」という意味です。どちらもAppleのパソコンですが、処理装置については従来のものはIntel製のものとなっているので略して「Appleモデル」「Intelモデル」としました。
それではいつも通り、技術仕様の比較表をご覧ください。
Apple MacBook Pro 13インチ 2020 M1 | Apple MacBook Pro 13インチ 2020 Four Thunderbolt 3 | |
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イメージ画像 | ||
メーカー | Apple | Apple |
カテゴリー | ノートPC | ノートPC |
カラー | シルバー スペースグレイ | シルバー スペースグレイ |
ディスプレイ比 | 16:10 | 16:10 |
ディスプレイ方式 | IPS | IPS |
ディスプレイサイズ | 13.3インチ | 13.3インチ |
ディスプレイ解像度 | 2560 x 1600 | 2560 x 1600 |
ディスプレイ密度 | 227 ppi | 227 ppi |
ディスプレイ輝度 | 500 ニト | 500 ニト |
OS | Apple mac OS Big Sur | Apple mac OS Catalina |
CPU | Apple M1 8コア | Intel Core i5-1038NG7 Intel Core i7-1068NG7 |
グラフィックス | Apple M1 8コア | Intel Iris Plus Graphics (G7) |
最大映像出力 | 6016 x 3384 @60Hz 1台 | 6016 x 3384 @60Hz 1台 4096 x 2304 @60Hz 2台 |
スピーカー方式 | ステレオ | ステレオ |
マイク | 指向性ビームフォーミングを持つ3マイク | 指向性ビームフォーミングを持つ3マイク |
メインメモリ容量 | 8 GB 16 GB | 16 GB 32 GB |
ストレージ容量 | 256 GB SSD 512 GB SSD 1 TB SSD 2 TB SSD | 512 GB 1 TB 2 TB 4 TB |
内カメラ解像度 | 720p(約100万画素) | 720p(約100万画素) |
端子 | USB Type-C x 2 (充電,Thunderbolt 3,DP,USB 4) 3.5 mmヘッドフォンジャック | USB Type-C x 4 (充電,Thunderbolt 3,DP,USB 3.1 Gen 2) 3.5 mmヘッドフォンジャック |
無線通信 | Wi-Fi 6 Bluetooth 5.0 | Wi-Fi 5 Bluetooth 5.0 |
バッテリー容量 | 58.2 Wh | 58.0 Wh |
充電電力 | 61 W | 61 W |
持ち時間(目安) | 17時間 | 10時間 |
サイズ(高x幅x奥) | 1.56 cm 30.41 cm 21.24 cm | 1.56 cm 30.41 cm 21.24 cm |
重量 | 1.4 kg | 1.4 kg |
キーボード方式 | シザー式 | シザー式 |
キーストローク | 1 mm | 1 mm |
今回比較していくのは、今回新しく登場したAppleモデルと、以前からあった4つのThunderboltポートがついているIntelモデル(第10世代CPU採用)になります。
変わらない点
この比較表などから読み取れる、変わらない点について紹介していきます。というのも、案外変わっていないことも多かったので、「変わったポイント」と「変わっていないポイント」を分けて紹介するのが効果的だと感じました。
デザイン
先ほども紹介しましたが、本体サイズ、重量、カラーバリエーション共に両者に違いはありません。
ディスプレイ
ディスプレイにも違いはありません。Apple独自のチップを採用したということでiPad Proなどで実現されている高リフレッシュレートモードを可能にした「Pro Motionディスプレイ」がワンチャン取り入れられるかと期待されましたが、そうでもありませんでした。
映像出力
この後詳しく紹介しますが、CPUおよびGPUなどを含めた処理装置関係については大幅に変更が施されました。しかしながら映像出力については意外にもその性能は変わらないようです。完全に同じというわけではないと思いますが、カタログスペックとしては、最大限に生かすには両者とも「6K解像度@60Hz 1台」となっています。
GPUが非常に高性能になったと激しく主張されているので、どうせなら6K 2台くらいはサポートしようぜという話ではありますね。
内カメラ、マイク、スピーカー
主に変更されたのは処理装置ということで、内カメラ及びマイク、スピーカーなどのアクセサリ系については全く変わっていません。 マイク、スピーカーは既にそれなりのものとなっていますが、内カメラについては10年くらい前から720p(HD)のままでしょうか。 相手の顔を見るには十分な解像度かもしれませんが、今の時代最低でもFHD(1080p)くらいは欲しいところです。
キーボード
キーボードについても従来のものと同じくシザー式となっています。
OS
発売当初の初期OSには違いがありますが、現在は両モデルとも最新の「Big Sur」OSを利用することができます。処理装置等に変更はあるものの、基本的なハードウェアの仕様にあまり差は無いので、同じOSで同じように動作します。つまり、処理性能などは一旦置いておいて、漠然とした使い心地については何らかわりはないといった感じでしょう。
変わった点
続いては変わった点についてです。
CPU
この記事のメインポイントではありますが、まず両者の違いとしてあげられるのが処理装置の中でも「CPU」についてです。
Appleモデル | Intelモデル | |
---|---|---|
アーキテクチャ | TSMC 5nm | Intel 10nm (Ice Lake) |
コア数 | 8コア(4 x 高性能 , 4 x 高効率) | 4コア |
オプション | Apple M1 | Intel Core i5-1038NG7 Intel Core i7-1068NG7 |
アーキテクチャについてはM1チップは最近登場したiPhone 12シリーズなどに採用された「A14」チップと同じくTSMCの5nmプロセスのものとなっています。異なるメーカーの半導体ということでプロセスのスケールについて一概に比較することはできませんが、Intelの10nmプロセスはTSMCの7nmプロセスに近いものとなっているとよく議論されますので、TSMCの5nmプロセスの方が電力効率などで優れているでしょう。
そしてコア数についてはIntelモデルは通常のパソコン用CPUのようにハイパフォーマンスなコアのみで構成されていて数は4つとなっています。 一方でAppleモデルについては8コアとなっていてそのうち4つはハイパフォーマンスのものとなっていて、残りの4つは消費電力が抑えられていて低めの性能となっています。 これはコスト削減というわけではなく、この二種類のコアをバランスよく利用することでより電力効率を向上させたりすることができています。このスタイルはスマートフォン用の処理装置でよくみられるものですね。
というよりはほぼ確実に、このAppleモデルMacBook Proに搭載されている「M1チップ」はiPhoneおよびiPadなどで採用されているA14チップに近いものとなっているので、必然的にモバイル向けの処理装置に構成が似るのでしょう。
というかそれがAppleの狙いかと考えられます。

こちらはApple公式ホームページに掲載されている性能比較イメージ図になります。Final Cut Proは有名な動画編集ソフトですが、一世代前の13インチMacBook Proと比べるとM1チップモデルは2.8倍の性能となっています。もちろんこの世のすべての処理で3倍近くの性能の向上を実現できているわけではありませんが、あらゆる処理が更に快適になっていることに間違いありません。
具体的なベンチマーク結果については以下の記事で紹介していますのでそちらをご覧ください。
【2010-2020】Apple MacシリーズPCのCPU型番とその性能まとめ
GPU
続いてはグラフィック処理装置についてです。
従来のMacBook Pro 13インチモデルについてはグラフィック処理はCPUに内蔵されているGPUで行われていました。つまりはグラフィックについてもIntelの処理装置ということです。現在も購入できるIntelモデルのCPUは第10世代「Ice Lake」ですので、内蔵グラフィックスはIntelの第11世代のものとなっていて内蔵グラフィックスとしては比較的高い性能のものでした。 しかしながらやはりグラフィック処理の専用の装置(AMDのRadeon GPU)などを積んでいる16インチモデル等に比べるとゲーム性能などでかなり劣るものがありました。
ですが今回登場したAppleモデルのMacBook Pro 13インチモデルについては、こちらもグラフィック処理はCPUと同じ場所にパッケージングされている組み込み型のGPUで行われているものの、性能が非常に高くなっています。
Appleモデル | Intelモデル | |
---|---|---|
型番 | Apple M1 | Intel Iris Plus Graphics G7 |

こちらもAppleの公式ホームページに載っていたものになります。こちらもFinal Cut Proですが、動画編集ソフトはCPUに加えてGPUをエンコードなどで活用することが多く、GPU性能の指標になります。というかむしろ、この手のエンコードではCPUよりもGPUの方が活用されているイメージです。
こちらではグラフィック性能が更に重視される3Dレンダリング性能について検証されていますが、もはや意味不明ですが一世代前のモデルの5.9倍の性能を実現していると主張されています。 もちろんこれはFinal Cut Proにおいて、特定の条件の中で算出された値になります。 ゲーム性能までおよそ6倍になるというわけではありません。 ただ、性能が向上しているのは間違いないです。
ゲーム性能については特に言及されていませんが、この感じだと倍近くの性能があっても不思議ではないでしょう。
記憶装置
処理装置が変更されたということで記憶装置(メインメモリ、ストレージ)の接続などについても若干の違いは生じたと考えられますが、オプション(容量)についても違いがあるようです。
どちらかというともう一世代前の13インチモデルに戻った感じですが、Intelモデルはメインメモリは16GB、ストレージは512GBから始まるのに対して、Appleモデルではメインメモリは8GB、ストレージは256GBから始まっています。 また、最大オプションにも同様に差があります。
通信
端子の種類については両者ともUSB Type-Cポートとなっています。Intelモデルでは4ポート、Appleモデルでは2ポートとなっていますが、Appleモデルでは従来通りのThunderbolt 3通信に加えて新たに、「USB 4」通信ができるようになっています。
USB 4といってもあまりなじみのない言葉ですが、とりあえず現状最強のUSB通信です。別にUSB 4だからといって従来のUSB 3シリーズ接続ができないわけではありません。 まだあまり活躍しなさそうですが、数年後には世の中に浸透しているかもしれませんね。Thunderbolt 4がサポートされるとも期待されていたわけですが、そちらについては実現されなかったようです。
そして無線通信については、IntelモデルではWi-Fiが5世代目(IEEE 802.11ac)までしかサポートされていなかったのに対して、Appleモデルでは6世代目(IEEE 802.11ax)までサポートされるようになりました。これは現在のMacBook Pro 16インチモデルでもサポートされている規格です。
バッテリー
カタログスペックではバッテリーのサイズがわずかに増加していますが、目安の持ち時間としては従来の物よりも7時間も長くなっています。 これはバッテリー自体のサイズというよりは、5nmプロセスを採用しつつ低電力コアをもバランスよく活用できていることに恩恵を受けているでしょう。そのため、高負荷を長時間かける処理においては持ち時間がそこそこ縮小されることも考えられます。
価格
最後に価格についてです。
Appleモデル | Intelモデル | |
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最小構成 | 8GB,256GB,M1 | 16GB,512GB,Core i5 |
価格(税抜) | 134,800円 | 188,800円 |
類似構成 | 16GB,512GB,M1 | 16GB,512GB,Core i5 |
価格(税抜) | 174,800円 | 188,800円 |
いつも通り最小構成、および類似構成について紹介しました。なお、処理装置のアーキテクチャが大きく異なっている上にまだ性能について多くのデータが得られていないので何とも言えない部分はあります。 とりあえず最小構成については記憶装置の違いもあってか、価格は大きく異なっています。
なお、Intelモデルについても一頃、メインメモリ8GB、ストレージ256GBが最低ラインになっていた時代はちょうど134,800円だったことが思い出されます。つまり以前のMacBook Pro 13インチモデルと同じ価格体勢ということでしょうか。
ただし、Appleは明らかにIntelの処理装置よりもApple独自の処理装置の方が性能が高いことを主張していますので、それを考えるとこのAppleモデルのコストパフォーマンスは以前よりも高いものになっていると言えるでしょう。
処理によっては5万円も高いIntelモデルよりも高い性能を発揮することも十分にあり得ますので、基本的にはAppleモデルで良いかと思います。 もしも一部のソフトウェアとの相性が悪いなど、IntelのCPUでないといけない理由があるのならIntelモデルを選択する手もありますが、依然と全く同じこと、むしろ更に新しいことができるようになっているのがこのAppleモデルの良い所でもあるので、Intelモデルでは動いてAppleモデルでは動かない処理というのはあまりないかと思います。
そしてIntel CPUにこだわるのなら、とりあえずは16インチモデルを購入するのも手かもしれません。
Intelモデルの13インチモデル、16インチモデルの違いについては以下の記事をご覧ください。
MacBook Pro 13インチと16インチモデルの違いを解説【2020年最新】