パソコンやゲーム機、テレビのレコーダーなど大容量のデータを扱う装置には「ストレージ」と呼ばれる記憶装置が搭載されています。
そしてパソコンではHDDが主に使われていたわけですが、ここ数年で一気にSSDが普及し、もはやSSD搭載パソコンが当たり前のようになってきました。
しかしながら全員が全員SSDを使うわけでもなく、HDDはHDDで必要とされている面があります。 ではSSDとHDDの違いは一体何なのでしょうか。
この記事では初心者が初心者のためにわかりやすく図を用いて説明していきます。
名前の違い
実はSSDとHDD、まず第一に名前が違うのです。というのは見たらだれでもわかると思いますが、実際名前が違うというのはわかってもそれぞれ何を略しているのかわかりにくいものです。
HDD

HDDはハード・ディスク・ドライブの略ですが、英単語の大まかな意味は以上のようになります。
文字通り、硬い円盤が中でたくさん回る装置です。よく「ハード・ディスク」と言われますが、それだと円盤の事を指しているということになるので中止しましょう。
SDD

そしてSSDについては、ソリッド・ステート・ドライブの略となっています。あまり聞きなれない単語かもしれませんが、要はHDDみたいに中で円盤がグルグル回る装置とは違って、物理的に全く動かない(固まっている) 装置ということです。
実際にSSDではHDDのような円盤は無く、中にチップが埋め込まれているだけです。
見た目の違い
HDDとSSDは名前も異なれば、見た目の異なります。
HDD

HDDの見た目は上のようになっています。パッケージされた状態だとただの箱にしか見えないのでイメージがつきずらいですが、中身を空けてみると非常に反射率の高いきれいな円盤と、その横に棒のようなものがあるのがわかります。
この円盤がいわゆるハードディスクなのです。ただこのディスクは「ハード」という名前が付きつつも、かなりデリケートですので分解しにくい構造になっています。
ちなみにHDDは上のような、大きめの3.5インチHDDの他にも、下のような小さめの2.5インチHDDも使われています。 音などは3.5インチHDDの方が圧倒的に大きいですが、サイズが大きい分3.5インチHDDの方が大容量・安定動作を実現することができます。

SSD

SSDについてもパッケージの見た目はただの箱です。ですが中身はHDDと全く違います。先ほども説明した通り、円盤は入っておらず、代わりにチップがたくさん埋め込まれています。 この黒いチップすべてが記憶装置というわけではなく、この図では上半分にあるチップが記憶装置となっています。それ以外はコントローラーやキャッシュメモリなどのチップです。
詳しい仕組みについては後程説明します。
また、SSDには上の箱型の2.5インチのものとは別に、M.2 SSDというものも存在します。

こちらは非常に小型で、最近かなり普及してきています。
仕組みの違い
ここからは少し難しくなってきますが、HDDとSSDは名前も異なれば、見た目も異なります。そして見た目も異なれば仕組みももちろん異なります。
そしてこの仕組みの違いが主な「用途の違い」や「特徴の違い」を引き起こしています。
それでは仕組みと同時に主な特性についても説明していきます。
HDDの仕組み

HDDの構造は上のようになっています。皆さんにHDDを作ってもらうわけではないので手短に説明しますが、
表についている円盤が「プラッター」で、モーターによって1秒間に100回くらい回転します。そして円盤に重なっている棒のようなものが「アクチュエータ」です。このアクチュエータの先っぽの方にデータを書き込んだり読み取ったりする「ヘッド」があります。
そして裏側には基盤があり、3つほど黒いチップがあります。この3つは
- キャッシュメモリ
- HDDコントローラ
- モータドライバー
となっています。
キャッシュメモリではデータのやり取りを円滑に行うために一時的に小さいデータを保存します。そしてHDDコントローラはHDD全体の部品を操作するための処理装置で、スマートフォンなどで使われている処理装置と同じように「ARMアーキテクチャ」のチップとなっています。
[dic term=”ARMアーキテクチャ”]
そしてモータードライバーはモーターの回転数を制御します。DVDと同じように、ディスクの内側を読む時と外側とでは回転数を変えなければなりません。そのため、精密な回転数制御が必要となってきます。

もう少しズームすると、ディスク(プラッター)とアクチュエータの先っぽ「ヘッド」は上のように配置されています。ディスクは磁界を保存するような金属でできていて、細かいブロックに分けられています。
書き込み
書き込むときは、ヘッドに電流を流して磁界を作り、真下にあるディスク上の細かいブロックの磁界の向きを調整します。この時、磁界の向きは上方向か下方向の二種類がありますので、「0」と「1」を表現することができます。
例えば1を書き込みたい時は「1」という情報を基に電流を流して、ブロックの磁界の向きが「1」になるようにします。0を書き込みたい時は逆に電流を流せばいいだけです。
読み込み
読み込むときは真下のブロックの磁界の向きを読み取って「0」か「1」かを判断すればいいだけです。
これは電磁誘導の要領と同じです。磁界から電流に変換することができます。
なお、実際に分解してみた様子については以下の記事をご覧ください。
HDDの特徴
衝撃や熱に弱い
ヘッドとディスクの間の距離は非常に短くなっています。短くないと精密な書き込み、読み込みができないためです。でもその代わり、少しでもディスクがずれたりヘッドが歪んだりしたらディスクを傷つけてしまうことになりますし、正確な書き込み・読み込みを行うことができなくなります。
そのため、衝撃に弱いです。また、過度な熱が外部から加わると変形してしまったり、磁界が変わったりしてしまうのでデータ破損や寿命の縮小につながります。 ただ、普通に使っている分にはそこまで影響を受けません。
振動・音が発生する
HDDの中にあるディスクはとてもきれいに回転しています。もちろん軸がブレているなんてことはありません。しかしあまりに高速回転過ぎて3.5インチのものだと特に振動が発生してしまいます。
また、アクチュエーターを小刻みに動かしたりディスクのスピンアップを行う時には特有の音も発生します。
大容量にできる
最近はSSDもかなり大容量化が進んできていますが、一般的にHDDの方が体積当たりのデータ容量を大きくできます。
というのも、一つのHDDの中には先ほど登場したディスクが数枚詰められています。そしてそれぞれ裏表を使うことができるので、結果的に膨大な量のデータを保存することができます。
最近ではブロックを細かくしたり、ディスクの枚数を増やしたりして大容量化が進められていますが、その一方でブロックが小さすぎて隣のブロックの磁界に影響されてしまったり、更に熱に弱くなってしまったりするなどの課題を抱えています。
また、最近では「SMR」という技術も注目されています。これはCMR方式とは異なり、データを保存する「トラック」という領域の密度を高くして、隣のトラックと重なるようにした方式で、書き込み・読み込みの時に一時キャッシュメモリに重なった複数のトラック(ブロック)ごとデータを移すので特にランダムアクセスは遅めですが、更に大容量のものを製造できるようになりました。
ランダムアクセスが特に苦手
HDDは数枚あるディスクをまんべんなく使っていろいろな場所に書き込みます。そのため急に細かいファイルの書き込みや読み込みを要求されたらモーターの回転数を調整したり、アクチュエーターを小刻みに動かしたりしなければなりません。そのため、ランダムアクセスが特に苦手な傾向にあります。

上から三,四番目等がランダムアクセスになりますが、SSDと比べると破滅的です。 そのため、OSの起動に時間がかかったり、全体的に動作がもっさりしていたりします。ここだけはどう頑張ってもSSDに勝つことができません。

SSDの仕組み

SSDの基盤には大きく分けて3つのチップがあります。
- キャッシュメモリ(黄)
- SSDコントローラ(青)
- NANDフラッシュメモリ(赤)
上二つはHDDでも登場しましたね。SSDにも、円滑にデータのやり取りをするためのキャッシュメモリが搭載されています。もちろんキャッシュメモリは主データを保存するための「NANDフラッシュメモリ」より高速になっていて、手助けすることができます。主にスマートフォン等に搭載されているメインメモリと同様に「LPDDR3」などのDRAMが使われます。
[dic term=”DRAM”]
そしてNANDフラッシュメモリが大量のデータを保存する場所になっています。一般的には写真のようにいくつかのブロックで構成されています。
なぜNANDなんだという話ですが、実は最初は「NOR」方式から開発されました。しかし大容量化を実現するにあたってNAND方式の方が優秀であるため、もうNAND方式しか採用されていません。基本的にはNORもNANDも同じ仕組みで、配線が異なるだけです。
そしてものすごく簡素化すると、NANDフラッシュメモリのデータ保存は以下のような仕組みになっています。
0を書き込み

0を保存するときは上方向から強い電圧をかけるので、電子の集団が紫色の酸化膜を通過して上側に移動します。そして上側に移動したら電圧をオフにしますが、酸化膜があるため電子は上側に保持されます。
緑色の矢印の方向に電流を流そうとしてもその先に電子が無いので流れません。そのため、この状態が0となります。でもこれはあくまでもイメージの話であって、実際は半導体がもっと複雑に入り組んでいます。
1を書き込み

1を書き込むときは0の時の逆です。下方向から強い電圧をかけることで、電子の集団が紫色の酸化膜を通過して下側に移動します。この時、緑色の矢印の方向に電流を流すことができるため、1となります。
つまりこの構造1つで1bit(0か1か)のデータを保存することができるのです。
この構造を「SLC(Single Level Cell)」と言います。しかしながらSLCでは面積当たりの容量を大きくすることが難しい上、大容量化には高いコストがかかります。
そこで開発されたのが「MLC(Multi Level Cell)」や「TLC(Tri Level Cell)」「QLC(Quad Level Cell)」です。
これらは、1の構造で2bit以上を再現する方式です。MLCでは2bit、TLCでは3bit、QLCでは4bitとなっていて、要はQLC方式ではSLC方式と同じ面積で4倍のデータを保存することができます。
これらの方式では、酸化膜を通過させる電子集団の量を調整することが複数の段階を再現することができます。しかし一度(上下から)電圧をかけただけではそこまで電子の量を微調整することができません。 そのため、MLCでは2段階に分けて電子の量を移動させます。TLCでは3段階、QLCでは4段階です。
この時に発生するのが以下の2つの課題点です。
- 速度低下
- 寿命縮小
速度低下
読み込み時はまだしも、書き込み時に段階的に行うためMLCにおいては単純計算でSLCに比べて倍の時間がかかります。もちろんQLCの場合は4倍です。
それでもHDDに比べたら圧倒的に速いですが、かなりの転送速度を必要とする状況においては違いが出てくるのでしょう。
寿命縮小
この方式においては速度低下よりも寿命縮小の方が致命的です。実は電子がこの紫色の酸化膜を通過するたびに酸化膜が劣化します。高電圧をかけて無理やり電子を通しているためです。そしてこの酸化膜の劣化が最終的にセルの破損へとつながるわけですが、MLCなどの方式では段階的に書き込みを行う分、一度の書き込みで何度も酸化膜を通過させることになります。
そのため、単純計算でMLCはSLCの2倍、QLCでは4倍速く、酸化膜の劣化が進みます。しかし実際は高速で何度も酸化膜を通過させていることなどが原因となり、QLCはSLCの数十分の1程度の寿命になります。
そして酸化膜が劣化してくると電子を保持できなくなり、電子が上下に自由に動けるようになってしまいます。その結果正常に書き込みを行うことができなくなります。
通常、この状態に陥ったセルは検知され、はじかれます。そして代替領域が使用されたりします。そして多くのセルが使い物にならなくなると、最終的に書き込みは行えなくなります。
なお、読み込みについては電圧をかけて電子の状態を調べるだけなので、書き込みができなくなった後でも行えるものが多いです。そのため、書き込み回数には制限があっても読み込み回数には制限はありません。
がしかし読み込みだけでは使い物になりませんね。
SSDの特徴
衝撃に強い・軽い・静音
HDDはヘッダを使ってディスクを精密に読み取っているので外部からの衝撃に弱かったですが、SSDについては電子レベルの話ですので外部から少し衝撃が加わったくらいでは壊れません。 また、HDDのように金属の塊が入っていない上に、耐衝撃性のために頑丈なケースが使われず、プラスティック製のケースが採用される場合が多いため、かなり軽いです。 加えて、HDDのように動くパーツが中に入っていませんのでほぼ無音・無振動で動作します。
ちなみにSSDはHDDに比べて発熱量が少ないとされていますが、実際のところSSDの方がアクセス速度が速すぎるためか、そこそこ発熱するのでどっこいどっこいです。
書き込み・読み込みが速い
HDDはデータの書き込み・読み込みにおいていちいちディスクの回転数を調整したりアクチュエーターを調整しなければなりませんでしたが、SSDは何かを動作させるわけでもなく、電気通信ですぐにデータにアクセスすることができますので書き込み・読み込み速度が非常に速いです。

先ほども載せた画像になりますが、同じ「SATA 2」通信を行った場合でも書き込み・読み込み速度の差が顕著にみられます。
連続した領域にアクセスする「シーケンシャルアクセス(上から一,二番目)」が速いのはもちろんのこと、HDDと比べると「ランダムアクセス(上から三,四番目)」がかなり優秀です。
そのため、OSの起動速度が爆速であったり、全体的に動作を機敏にすることができます。
書き込み回数に制限がある
具体的に回数が決まっているわけではありませんが、先ほどの「MLC」などの方式によってある程度生涯書き込み回数や書き込みデータ量が決まってきます。
HDDにはそのような制限はありません。 おそらくSSDを寿命になるまで使い切った人はそこまでいないんじゃないかと思いますが、これがSSDの方がHDDよりも寿命が短いと言われる原因です。
特定のブロックだけ劣化しないように複数のブロックが自動的に均等に利用されるようになっていますが、それでも特性上、書き込みには制限があるといった感じです。 そのため、頻繁に書き込みを行うようなパーティションではなく、OSを入れるパーティション用としてのみ使うのが一番効果的だと思います。
コストが高い
SSDは体積当たりのデータ容量がHDDに比べて少ない上に、製造に高いコストがかかります。
といっても最近は全体的にかなり安くなってきていますし、QLC方式のものはケースだけなんじゃないかってくらい安価だったりします。しかしそれでもHDDほどの低コストさを実現することはできません。
なので生涯書き込み量の話もありますし、莫大なデータを保存するには向いていません。
HDDとSSDの違いまとめ
それでは最後にHDDとSSDの違いをまとめます。
HDD | SSD | |
---|---|---|
主な形態 | 3.5インチ(SATA) 2.5インチ(SATA) 外付け(USB) |
2.5インチ(SATA) m-SATA M.2 外付け(USB) |
重量 | 重い | 軽い |
振動 | 激しい | 無い |
音 | 聞こえる | 聞こえない |
データ保存方法 | 磁気 | 電子(NAND) |
書き込み・読み込み速度 | 遅い | 速い |
寿命 | 長い | 短い |
耐衝撃性 | 低い | 高い |
耐熱性 | 低い | 比較的高い |
体積当たりの容量 | 大きい | 小さい |
容量当たりのコスト | 低い | 高い |
製造メーカー数 | 少ない | 多い |
※わかりやすくするために言い切っていますが、実際は方式やメーカー、使い方によって変わる場合があります。
SSDは基盤にいくつかのチップを取り付けるだけで製造できるうえに、コンパクトで耐衝撃性もあり輸送がしやすく、需要が高まってきていることもあって様々なメーカーが製造しています。もちろん中にはよくわからない中国のメーカーが作っていたりして、あまり品質の良くないものもあります。
でも、その分価格競争が激しかったりするので割と良心的な価格で提供されることが多いです。しかし基本的に安かろう悪かろうです。
一方でHDDはSeagateやWestern Digital、Samsung、Hitachiなどの大手メーカーが主として製造している傾向にあります。
なんだかんだでHDDもまだまだ活躍する場があることが何となくお判りいただけたと思いますが、一般の人がパソコンを使う分には、特にOSのインストール先においては圧倒的にSSDの方が好ましいです。
もしまだオールHDDで、SSDなんて体験したことが無いなんて人が居たら是非下の記事を見てSSDに乗り換えてみてください。
※この記事は初心者が初心者のために作ったものです。私は専門家ではないので一部誤った解釈をして説明している可能性もございますが、あらかじめご了承ください。